1990年春、まだ16ビット機が夢物語だった時代に、真紅のHuCARDをPCエンジンにそっと挿し込み電源を入れると、画面が左右に裂け巨大な武者が現れました。和太鼓のように響くBGMと「ありがたやー」という声がリビングを満たし、畳の上で手にしたパッドからは血が滾るような緊張感が伝わってきました。鎌倉へ向かう怨霊・景清の復讐行脚は、当時のゲーム少年たちに“和のホラー”という新しい風を吹き込んだのです。
開発背景や技術的な挑戦
アーケード版を生んだ“源平プロジェクト”は、社内の余剰時間を利用した非公式開発が発端でした。支持を得て正式化された後、PCエンジン移植では3モード構成や巨大キャラを8ビット級のVRAMに収めるため、スプライト分割とBG合成を駆使し、音声も圧縮データを巧妙にストリーム再生することで再現しています。発売日は1990年3月16日で、HuCARD1枚に収めた完成度はファミ通「ゴールド殿堂」で評価されました。

プレイ体験
横モードで落とし穴に転落すると冥界へ落ち、苦闘の末に鳥居をくぐって現世に戻る絶望と安堵の落差、BIGモードで画面半分を占める義経の剣閃を見切りながら放つ“飛び斬り”、そして平面モードの迷路で方角を見失ったときの焦燥――三つの視点切替えがもたらす没入感は家庭用としては異例でした。ジャンプ連打で浮島を渡る甲斐国、キノコ弾を避けて弁慶を倒す相模国など、攻略の難所も多く、残機が尽きても再挑戦したくなる中毒性があります。
初期評価と再評価
発売当時、アーケードの“ほぼ完全移植”として高く評価され、PC Engine FAN人気投票では1993年時点で24位にランクインしました。しかし90年代後半には操作性や難度の高さが海外メディアで酷評され、評価が揺れ動きます。近年はPCエンジン mini収録を契機に再評価が進み、「圧巻のビジュアルと和風ホラー演出を家庭で体感できる歴史的タイトル」としてレトロゲームファンの支持を集めています。
他ジャンル・文化への影響
本作の“和風サイコホラー×巨大スプライト”演出は、その後の『大魔界村』や『侍道』シリーズなど和風ダークアクションに影響を与えました。また、マップ分岐と3視点切替えという試みはメトロイドヴァニア的探索デザインの先駆とも評され、ナムコが家庭用移植で示した高忠実度ポリシーは後年の『スプラッターハウス』や『ワルキューレの伝説』移植にも受け継がれています。
リメイクでの進化
もし現代にリメイクされるなら、Unreal Engine による骨太な3Dアクションとして横・縦・俯瞰視点をシームレスに切替え、フォトグラメトリで再構築した平安末期の京都や黄泉を旅する映像体験が期待されます。ボス戦はQTEを排し、剣気ゲージ管理と部位破壊を導入すれば景清の剣術がより戦略的に。さらにルート分岐をオンライン共有する“鎌倉到達タイムアタック”機能でコミュニティ対戦も可能でしょう。
まとめ
PCエンジン版『源平討魔伝』は、3モード切替えと巨大スプライトを家庭用で実現した意欲作であり、和風ダークアクションの礎を築いた名作です。オプションモードによる難易度調整や豊富な隠し要素が繰り返し遊ぶ動機を与え、30年以上経った今でも色あせない独特の妖しさと緊張感を宿しています。復讐に燃える景清の旅路は、プレイヤー自身の挑戦心を焚きつける“魂の合戦”として語り継がれるでしょう。
©1986, 1990 NAMCO LTD.